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最高裁判所第三小法廷 昭和41年(オ)529号 判決

上告人

中山清治郎

代理人

宗政美三

被上告人

佐藤朗

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人宗政美三の上告理由第一、二点について。

原審が適法に確定した事実関係によれば、上告人は、昭和三〇年頃、訴外内田進から、当時、三原市城町土地区画整理組合による土地区画整理事業施行地区内に存在した同人所有の同市城町六〇二番地の一八宅地六〇坪を従前の土地とする仮換地の一部であつた本件宅地を買い受け、内田の同意を得て買受部分にあたる二一坪六合四勺の範囲を定め、その地上に本件建物を建築したというのである。右事実関係によれば、右土地売買契約は、仮換地についてその一部分を特定してなされたものであり、従前の土地そのものについて買受部分を特定してなされたものではないが、かかる場合においては、特段の事情の認められないかぎり、仮換地全体の地積に対する当該特定部分の地積の比率に応じた従前の土地の共有持分について売買契約が締結され、買主は売主とともに従前の土地の共有者となり、売買の効力が生ずるに伴い、仮換地上にいわゆる準共有関係として従前の土地に対する持分の割合に応じた使用収益権を敢得するものと解するのが相当である(当裁判所昭和四三年(オ)第三八一号同四三年九月二四日第三小法廷判決、民集二二巻九号一九五九頁、同昭和四二年(オ)第七四四号同四三年一二月二四日第三小法廷判決、民集二二巻一三号三三九三頁参照)。

ところで、論旨は、被上告人が上告人に対する抵当権を実行し、本件建物を競落してその所有権を取得した当時、本件宅地は上告人と内田との共有関係にあつたから、被上告人のために右競落による法定地上権の成立を認める余地はなく、その成立を肯認した原判決は違法であるという。

地上権は他人の土地の使用を内容とし土地所有権を制限する物権であるから、他人のため地上権を設定する者はその目的たる土地について所有権を有する者でなければならないが、仮換地の指定がなされた場合においては、従前の土地の所有者は、仮換地については使用収益権を有するにすぎず、その所有権はなお従前の土地にあるのであるから、仮換地上に直接地上権を設定する権限を有するものではなく(当裁判所昭和三九年(オ)第七五一号同四二年六月二九日第一小法廷判決、裁判集民事八七号一三七七頁参照)、この理は民法三八八条によつて抵当権設定者が抵当物件の競落人のため地上権を設定したものと看做される場合においても異らないものと解すべきである。したがつて、仮換地上の建物が競落された場合においては、法律上は従前の土地について法定地上権が設定されたものと看做され、右法定地上権に基づいて仮換地上の使用収益が許されることになるものというべきであつて、原判示のように仮換地の上に直接法定地上権が成立することを認めることは許されないものといわなければならない。してみれば、本件において仮換地が上告人と内田との間の協議によつて分割され、本件建物の敷地たる本件宅地部分を上告人の所有とする合意が成立していた事実のみによつて仮換地上に法定地上権を認めた趣旨の原判決は、仮換地の利用関係の性質についての解釈を誤つたものというほかはない。

しかし、本件において、従前の土地につき被上告人のために法定地上権が成立したか否かは別個に検討する必要がある。

おもうに、上告人と内田との間に締結された前示売買契約によつて上告人と内田とは従前の土地につき仮換地の地積の割合による持分に応じた共有関係を生じ、また、仮換地上の使用収益権についても準共有の関係を生じたこと前記のとおりであつて、土地が共有である場合に、共有者の一人の所有にかかる地上建物が競落されるに至つても、共有土地の上に法定地上権の発生を認めることが原則として許されないことは所論のとおりであるが(当裁判所昭和二六年(オ)第二八五号同二九年一二月二三日第一小法廷判決、民集八巻一二号二二三五頁参照)、右は他の共有者の意思に基づかないで該共有者の土地に対する持分に基づく使用収益権を害することを得ないことによるものであるから、他の共有者がかかる事態の生ずることを予め容認していたような場合においては、右の原則は妥当しないものと解すべきである。しかるところ、本件において原審の確定したところによると、上告人が内田から買い受けた二一坪六合四勺の土地については、前記のようにその地上に上告人によつて本件建物が建築されたころ、上告人と内田との間の協議により右の部分を上告人の所有とする旨の合意が成立していたというのであり、右合意は、とりもなおさず、内田が上告人に対する関係で従前の土地の共有持分に基づく仮換地上の共同使用収益権を、右買受部分に関するかぎり事実上放棄し、上告人の処分に委ねた趣旨に解することができるから、内田は法定地上権によつて第三者が右土地を使用収益することをも容認していたものというべきである。したがつて、本件においては、被上告人が本件建物を競落したことにより従前の土地について被上告人のため法定地上権が成立し、被上告人は右法定地上権に基づいて仮換地としての本件建物の敷地を占有しうべき権原を取得したものと解するのが相当である。

もつとも、従前の土地に所有権以外の権利で登記のないものを有することになつた者は、土地区画整理事業施行者から使用収益部分の指定を受けることによつてはじめて当該部分について現実に使用収益をなしうるにいたるのであつて、いまだ指定を受けない段階においては仮換地につき現実の使用収益をなしえないというべきであるが、右の場合においても、当事者間においては、仮換地上の特定部分の使用収益について合意が成立するかぎり、右権利者は適法にその特定部分の使用収益をなしうるものと解するのが相当であるところ、建物所有者の地位の保護を目的とする法定地上権制度の法意に照らすと、仮換地上の建物が競落された場合においては、右指定がなされるまでの間においても、その建物の敷地(本件においては上告人の買受部分)については抵当権設定者と競落人との間に右の合意がなされたと看做されるものと解するのが相当であるから、被上告人の本件土地の占有は適法に開始されたものといわなければならない。そして、さらに原審の確定するところによれば、上告人は、昭和三五年一二月三日、前示土地区画整理事業の終了に伴い、本件宅地(買受部分)について所有権保存登記を経由したというのであつて、上告人がかように換地として確定した前記買受部分を単独で所有するに至つた経緯が、右換地処分前に内田との間で持分の割合に従つて従前の土地を分割し施行者に対し所定の手続をとつて自己の買受部分の土地につき仮換地変更指定処分を経た結果によるものであるか、または、従前の土地につき共有のまま換地処分がなされた後、内田との間で前記合意に基づき換地を分割して単独の所有者となつたものであるかは原審の確定するところではないが、いずれにせよ、右登記の日以前にその買受部分は従前の土地に対応する換地として確定していたことが明らかであるから、被上告人は、上告人が被上告人の土地不法占有による損害賠償債権の存在を主張する右保存登記経由の日の翌日以降においては、特段の事情のないかぎり、右法定地上権に基づいて本件建物の敷地である本件宅地を占有する正当な権原を有したものというべきであり、したがつて、上告人主張の損害賠償債権は発生する余地がなかつたものといわなければならない。

してみれば、原判決が本件宅地の占有は、被上告人が法定地上権による正当な権原に基づくものとして上告人の相殺の抗弁を排斥した結論は、結局において正当であることに帰するから、これと異なる見地に立つ所論はすべて理由がなく、排斥を免れない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(松本正雄 田中二郎 下村三郎 飯村義美 関根小郷)

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